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| 樹冠の移動者−猿類
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賑やかな集団。 彼らの賢さには興味と恐怖、愛しさと憎しみが交差する。 |
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<<ボルネオ>>
カニクイザルは日本猿と同じ属で、見た目も近い。ボルネオでも一番容易に見られる猿だ。私にとっては身近に猿を見たことがなかったため、カニクイザルさえも初めは珍しかった。しかし、日本猿同様に人間に一番近く接触を持つことにもなった。
最初の出会いはジャングル・キャンプだ。カニクイザルはキャンプ地にも頻繁に現れる。どこからともなく集団でやってきて、キーキー、キャーキャーと大騒ぎ。一番うるさいのは早朝だ。キャンプ地の質素な小屋はトタンでできた屋根だ。彼らは我々の頭上で食事をする。豊富な食料を前に少し食べては捨てといった贅沢な食べ方をするので、トタン屋根も大合唱。寝ている私達を容赦なく叩き起こす。リスなどは稀にポトンと落とすだけなので、声をあげなくともすぐわかる。だが、それ以外に被害はない。豊富な食料のあるジャングル・キャンプでは彼らが人間に手を出すことはない。ここでは滅多に地上を歩くこともない。
サラワク州のバコ国立公園にもカニクイザルは沢山いる。ここはジャングル・キャンプより宿泊施設は整っており、公園内も整備されている。しかし、カニクイザルたちは頻繁に宿の周りをうろついている。地上を歩き回っているのだ。こちらから近づかなければ、滅多に向こうからも近づいてくることはない。彼らをじっくり見るには良いが、猿とは闘ったことがある私にとってはつい、緊張してしまう場所だ。
サバ州のある国立公園でもカニクイザルと出会った。この国立公園には滅多に海外の旅行者はこない。おそらくアクセスが悪いせいだろう。ビーチとヒース林がある美しい場所で個人的には好きな場所だ。しかし、ここには人に慣れた1頭のカニクイザルがいた。私が到着した途端、早速彼はあいさつに来た。かなり大きなオスである。私をじっと見つめている。無視をしながら歩き出すと、後を付いて一緒に歩き出した。まずい、私の様子を伺っている。おそらく貴重品を入れたバックを狙っている。彼は人間のバックには常に美味しい食料があると信じているのだ。必ずバックを狙ってくると確信した。隙を見せてはいけないと思いつつ、近づいたときの為に棒を探した。立ち止まり、カニクイザルの位置を確認しながら棒を探していると、僅かの隙を縫って向かって来た。”こらーっ”と大きな声を出し、彼の差し出した手を振り払う。僅かに手と手が触れた。彼は数歩引き下がり、歯を剥き出して威嚇する。これで負けてはいけない。こちらも体を大きく見せ、更に大きな声を出して威嚇した。更に数歩引き下がる。そして近くにある棒を手に持ち、振り回しながら歩き続けた。彼は諦め切れず、まだ私の後を付いて来たが、それ以上の接触はなかった。翌朝、今日も闘うぞと気合を入れて外に出て、早速棒を手にした。しかし、いくら探してもカニクイザルはいない。通りかかったスタッフに聞くと、危ないので檻に入れたと言っていた。昨日、文句を言ったのが効いたのか、私の闘いを見て、両方の安全を考えたのかは不明である。
<<カリマンタン>>
カリマンタンでは主にボートで移動していたので、野生の動物を身近に見ることは少なかった。カニクイザルも例外ではない。代わりに飼っている動物たちとは何度か出会った。
ガイドと共に訪れた家ではカニクイザルの子供がいた。首に長いロープを巻かれている。子供ということもあるだろう。近づくと直ぐに私の手に乗ってきた。かわいい。そして頭に乗り、蚤獲りのようなことを始めた。私は動物には好かれる方なので、仲間と思われたと思っていた。しかし、ガイドが言うには、このあたりの女性は髪の毛の間に米を入れている習慣があり、カニクイザルの子供はそれを捜して食べるのだと言う。その頃、長くしていた髪を暑さのため束ねていたので、カニクイザルの子供も探していただけのようだ。髪を長くしているのも悪いことばかりではないと思った。
<<マレー半島>>
タマン・ヌガラのヌサ・キャンプにもカニクイザルは時折やってくる。大抵はどこかの木の周りで遊んでいるのだが、外にあるゴミ箱をあさったり、宿の中に入ってきて食料を奪っていく。私は昼間も宿にいることが多かったので、よくカニクイザルたちと遭遇した。彼らは人間の行動をよく知っている。大抵の旅行者は昼間は出かけている。たまにシャワーなどで戻ってきても、長居はしない。ドアを開けたまま、部屋にいることは少ないのだ。そんなときに私と鉢合わせしてしまう。彼らも驚き、そして威嚇が始まる。ここのカニクイザルたちはまだ近づくことまでは憶えていない。屋根の上などで必死に鳴きわめき、歯を剥き出す。私も負けじと大声を出す。時にはスタッフもやってきて応戦する。大抵はそれで諦めて去っていく。
ここでは”猿に餌を与えるな”と張り紙もあり、訪れる旅行者もカニクイザルを知らない人が多いので、これ以上近づくことはないだろう。
カニクイザルの悪さも人間側に大きな問題があると実感した。食料の豊富なジャングルがあり、こちらが必要以上に関わらなければ、程よい緊張関係で保っていけると思う。餌を与えることは、長い目で見てお互いに憎しみしか産まない。
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