
| 樹冠の移動者−霊長類
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しなやかに枝を掴み渡っていく。 空中を泳いでいるかのようなみごとな腕わたり。 |
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<<ボルネオ>>
最初にギボンと出会ったのはボルネオ島だった。早朝のモーニング・コール、ウーゥ、ウーゥと聞こえる方向を丁寧に探すと、遠くの木の上を悠々と渡っていた。
顔などは良く見えないが、優雅な腕渡りは充分に楽しめる。子供の頃に学校のすみにあった平行棒を渡っているようだ。しかし、ギボンが掴むのはジャングルの枝々。間隔も均一ではないし、枝の太さも違う。彼らは尻尾もないので、どのようにバランスをとっているのだろう。
<<マレー半島>>
タマン・ヌガラにもギボンは生息している。しかし、ここでも簡単には彼らに出会えない。声だけは毎日聞くことできるのだが、姿はなかなか現さない。
姿がなくてもその声は素晴らしい。時には悲しげに何かを訴えているように、時には楽しげに会話をしているように。あるとき、彼らの存在に気づかずジャングルの中を歩いていた時、とっさに何かが枝から枝へ動いて行った。猿かリスかとあたりを探すと、突然ウーゥ、ウーゥと始まった。その声は体中に響き、振動までも伝わってきた。どこにいるのかとほんの少し動くだけで、彼らには私の存在が伝わってしまう。鳴き声の合間にバサッ、バサッと移動する音が聞こえてくる。ほんの1分くらいの出来事で、とうとう彼らの姿を見ることができなかったが、彼らの声の振動が私の体や周りの木々に伝わっていく感触は忘れることができない。
タマン・ヌガラ滞在中にはほぼ毎日、ギボンがよく現れる場所へ通った。ちょっとした丘を登るのだが、結構きつい。殆どの旅行者は1度登って、良い景色を眺めて終わりだ。360度パノラマで、森や川が見渡せる。ときにはサイチョウもやってくる。耳を澄ませば鳥やリスの声も聞こえてくる。また、霧が多い場所で、その流れを見ているだけでも楽しい。登りがきついせいか、旅行者もあまりやってこないので、一人気ままにいろいろな風景や音を楽しみながら、ギボンがやってくるのを待っていた。
殆どは数百メートルも先の木々の中から声を頼りに双眼鏡で探していく。声が聞こえても彼らの姿はなかなか見つからない。ようやく見つけても、300mm程度の望遠レンズでは豆粒程度にしか写らない。見れただけでもラッキーなので、次のチャンスを待つ、こんなことの繰り返しだった。
そしてようやくチャンスは来た。その日はいつものように日の出前に出かけた。そしてギボンの声を聞きながら、丘を登って行く。頂上で、くつろぎながらも周囲に気を配る。それ程、ギボンの声は聞こえてこない。今日も駄目かと思いつつ、鳥の姿や声に耳を澄ませていた。既に数時間が経っていた。突然、崖の下で何かが動いた。とっさに目をやるとギボンだ。肉眼でも顔や白い手足が見える。こんなチャンスは滅多にない。急いでカメラを向け、写真を撮る。多少、距離があるせいか、落ち着いた様子だ。しかし、ナーバスなギボンに気づかれると、直ぐに森の中に姿を隠されてしまう。私は隠れる場所もない。できるだけ動かずにシャッターを切る。ほんの1分くらいで、そのギボンは移動を始める。すると周りにも数頭いたらしい。姿は見えないが、バサッ、バサッと移動する音がした。姿を隠した後、いつものウーゥ、ウーゥという鳴き声が始まった。これがタマン・ヌガラ滞在の最後の日だった。
いつの日かまた、会えればいい。しかし、この森の周りでは木を運ぶトラックも、ホテルも増え続ける一方だ。
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